エグゼクティブサマリー

2025年7月最終週、アジアの一次産業は、地政学的な断絶と気候変動の物理的影響という二つの大きな力が、産業構造を不可逆的に変え始めた転換点として記録されるべき一週間であった。第一に、米国による新たな「相互関税」の導入と、中国やカザフスタンによる資源ナショナリズムの激化は、世界のサプライチェーンが RHETORIC から具体的な経済的障壁へと移行し、地政学的ブロックに沿って硬直化する現実を浮き彫りにした。第二に、インドのモンスーン遅延による作付け危機やベトナム・メコンデルタの塩害は、気候変動がもはや未来のリスクではなく、地域の食料安全保障と経済安定を直接脅かす現在の経営課題であることを証明した。第三に、こうした圧力に対し、日本が国家戦略として推進する「スマート農業」や、インドネシアとインド間の持続可能性を軸としたパーム油協定などは、技術とサステナビリティが単なる効率化の手段ではなく、国家安全保障と経済的強靭性を確保するための核心的な手段として位置づけられていることを示している。

主要動向ハイライト

【ハイライト1】米国、アジア諸国に広範な「相互関税」を発動、貿易秩序の再編が加速

  • 発生日時: 2025年7月31日
  • 要約: 米国大統領は、アジアの主要貿易相手国に対し新たな「相互関税」を課す大統領令に署名し、8月7日より発効する。
  • 構造的意義: この措置は、世界的な貿易摩擦を「貿易戦争」という一時的な状態から、政治主導の「管理貿易」という新たな常態へと移行させる決定的な一歩である。これにより、アジア域内に新たな階層構造が生まれる。インドネシアやフィリピン、ベトナムのように交渉を妥結した国は比較的優位に立ち、タイやカンボジア、マレーシアのように関税を課される国は不利な立場に置かれる。この結果、農業、繊維、電子部品などあらゆる一次・二次産品のサプライチェーンにおいて、コストとリスクを根本から見直す緊急の必要性が生じ、アジア全体の生産・物流ネットワークの再編が不可避となる 1。
  • 関連領域: 農業(特に輸出向け作物)、鉱業(加工品)、製造業全般、物流、国際政治
  • 参照: https://www.nationthailand.com/business/economy/40053420,https://budgetlab.yale.edu/research/state-us-tariffs-august-1-2025,https://ashu-aseanstatistics.com/news/303247-10422518930

【ハイライト2】資源ナショナリズムが激化、中国とカザフスタンが重要鉱物の輸出を「武器化」

  • 発生日時: 2025年7月31日頃
  • 要約: 中国が防衛用途向けのレアアース(REE)輸出規制を強化する一方、カザフスタンは国内加工産業の育成を理由に非鉄金属(銅、アルミニウム、鉛)の輸出を2025年末まで一時的に禁止した。
  • 構造的意義: これは、原材料へのアクセスが明確に国家戦略の道具として利用されるパラダイムシフトを象徴している。特にハイテク産業や防衛産業のサプライチェーンの極端な脆弱性を露呈させ、世界的な「フレンド・ショアリング」による安全な資源確保競争を激化させる。この動きは、中国の支配が及ばないオーストラリアのような同盟国の資源生産者(例:PLS)に直接的な利益をもたらす一方、輸入に依存する国々には、代替供給網の構築という喫緊の課題を突きつける。もはや資源は単なる商品ではなく、地政学的な影響力そのものとなった 6。
  • 関連領域: 鉱業、半導体、EVバッテリー、防衛産業、地政学、サプライチェーン管理
  • 参照: https://www.indrastra.com/2025/08/chinas-restrictions-on-rare-earth.html, https://www.mining.com/australias-pls-primed-for-growth-as-lithium-winter-starts-to-thaw/,http://www.china.org.cn/world/Off_the_Wire/2025-07/12/content_117974778.shtml

【ハイライト3】気候変動がインドとベトナムの農業に大規模な直接被害をもたらす

  • 発生日時: 2025年7月下旬
  • 要約: 2025年のモンスーンの遅れにより、インドの主要作物の作付けが例年より30~45%遅延。一方、ベトナムのメコンデルタでは塩水侵入が例年より1.5ヶ月早く発生し、農業生産に深刻な影響を及ぼしている。
  • 構造的意義: 気候変動が将来のリスクではなく、企業の損益計算書に直接影響を与える「現在」の危機であることを明確に示している。これにより、伝統的な農業慣行、水管理、食料サプライチェーンのあり方について根本的な見直しが強制される。バングラデシュで承認されたような気候耐性品種や、ベトナムで計画されている適応インフラへの需要は、もはや環境問題としてではなく、経済安全保障上の緊急課題として急浮上する。これは、気候テックやアグリテック分野における巨大な市場機会の創出を意味する 10。
  • 関連領域: 農業、水管理、食品加工、保険(農業保険)、インフラ、気候科学
  • 参照:https://www.thebetterindia.com/455030/monsoon-delay-sowing-crisis-india-2025/,https://van.nongnghiepmoitruong.vn/mekong-delta-aims-to-mitigate-damage-from-saltwater-intrusion-in-2025-d422395.html

【ハイライト4】日本、「スマート農業」を国家食料安全保障戦略の中核に据え加速

  • 発生日時: 2025年7月31日
  • 要約: 日本の農林水産省(MAFF)の支援の下、クボタやヤンマーなどの大手企業が大阪万博2025で最新のAI搭載自律走行ロボットやアグリボルタイクス(営農型太陽光発電)を発表した。
  • 構造的意義: これは、日本が農業技術を単なる効率化ツールとしてではなく、国家主権の維持に不可欠な要素と見なす戦略的な転換を示している。高齢化する労働力という国内課題に対応し、不安定な世界情勢の中で食料自給率を確保するための国家レベルの取り組みである。これにより、ハイテク農業ソリューションの巨大な国内市場が創出されると同時に、同様の人口動態と食料安全保障の課題に直面する他の先進国にとって、将来的な「リープフロッグ」モデルを提供する可能性がある 15。
  • 関連領域: 農業機械、AI・ロボティクス、再生可能エネルギー、IoT、国家安全保障政策
  • 参照:https://www.manilatimes.net/2025/07/31/business/agribusiness/ai-robotics-lead-japans-food-security-effort/2159013,https://farmonaut.com/asia/japan-smart-agriculture-robotics-7-ai-innovations-2025

主要関連領域別 個別重要ニュースの詳細分析

【農業・食料安全保障領域の動向】

この領域は、気候変動による物理的ストレス、食料安全保障強化を目的とした政策対応、そして戦略的な貿易外交という3つの力が衝突する場となった。一連の出来事は、伝統的な農業モデルが限界に達し、各国政府がサプライチェーンを確保するために技術的解決策と国際合意の両面から介入を強めている現実を明らかにしている。インドのモンスーン危機やベトナムの塩害は気候変動の直接的な脅威を示し、それに対してバングラデシュやマレーシアは新品種開発で、インドとインドネシアは戦略的協定で対抗しようとしている。同時に、偽造種子・農薬の蔓延は、生産基盤そのものの脆弱性という根深い課題を浮き彫りにした。

【1】インドのモンスーン遅延がカリフ作(夏作物)の作付けシーズンを直撃

【発生日時】

2025年7月下旬

【詳細内容】

2025年のモンスーンの到来が大幅に遅れたことにより、インド全土でカリフ作(夏作物)の作付けが深刻な影響を受けている。報道によると、コメ、トウモロコシ、大豆といった主要作物の作付けは、前年比で30~45%遅延している 11。特にマハラシュトラ州では作付面積が昨年の69%にとどまり、ビハール州やジャールカンド州では55~60%に過ぎない 14。すでにモンスーン期の豪雨や雹害により、158,651ヘクタール以上の農地が被害を受けたと政府は報告している 17。この状況は、インドの農業人口の58%以上が依存する農業経済と、国の食料供給に直接的な脅威をもたらしている 11。

【背景・要因・進展状況】

この問題の根底には、気候変動によるモンスーンパターンの不安定化がある。近年の研究では、インドの降雨パターンが変化し、極端な気象現象が増加していることが指摘されている 18。2025年の遅延は、単なる天候不順ではなく、この長期的なトレンドが顕在化したものと見なせる。農家は、伝統的な作付けスケジュールが通用しなくなった現実に直面し、対応を迫られている。多くの農家は、マイクロ井戸の掘削、雨水貯留タンクの設置、より迅速な直播き技術への転換といった場当たり的な適応策でしのいでいるが、これらは問題の規模に対して不十分である 11。政府は、女性の自立支援グループを対象とした「ラクパティ・ディディ」計画などを通じて農村経済の強化を図っているが 17、このような大規模な気候ショックは、こうした社会政策の有効性をも試すことになる。

【分析的考察】

この事象は、単なる農業危機ではなく、インド経済全体に波及するシステミックな危機である。第一次の影響として農家の収入減が挙げられるが、第二次には、農家が肥料や農薬の購入をためらうことで、農村部の小売経済全体が停滞する 11。さらに、過去のモンスーン不順の年には、必需品の食料インフレが10~12%に達した例もあり 11、都市部の消費者物価への直接的な影響が懸念される。第三次影響として、これはインドの農業モデルの根本的な見直しを迫る契機となる。気候変動が常態化する中で、大規模な水管理インフラ、バングラデシュで導入されたような気候耐性品種 10、そして広範な農業保険制度への需要が爆発的に高まることは必至である。これは、関連技術やサービスを提供する企業にとって巨大な市場機会を意味する。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】

ネガティブ影響:

  • 農家: インド、特にマハラシュトラ州、ビハール州、ジャールカンド州の天水農業に依存する小規模農家。収入減と債務増加のリスク。
  • 農業資材企業: 肥料、種子、農薬メーカーおよび販売代理店。需要の不確実性による売上減少。
  • 食品加工・小売業: 原料不足による生産コストの上昇と供給不安。
  • 消費者: 食料品価格の上昇による家計への圧迫。
    ポジティブ影響:
  • アグリテック企業: 点滴灌漑、土壌水分センサー、気候予測サービスなどを提供する企業。
  • インフラ企業: ダム、運河、貯水池などの水管理インフラを建設する企業。
  • 種子開発企業: 干ばつや熱波に強い新品種の開発・販売を行う企業。
  • 保険会社: 農業保険商品への需要増加。

【引用・参照情報源】

URL:https://www.thebetterindia.com/455030/monsoon-delay-sowing-crisis-india-2025/,https://www.downtoearth.org.in/environment/as-told-to-parliament-july-22-2025-over-150000-hectares-of-crop-area-affected-due-to-monsoon-rains-says-government,https://deccanchronicle.com/lifestyle/environment/indias-monsoon-is-changing-and-its-reshaping-agriculture-and-climate-resilience-1892815

【2】インドとインドネシア、持続可能性を軸とした戦略的パーム油協定を締結

【発生日時】

2025年7月29日

【詳細内容】

インド植物油加工業者協会(IVPA)とインドネシアパーム油協会(IPOA)は、2025年7月29日にニューデリーで開催されたIVPA会議において、パーム油分野における協力に関する3年間の戦略的合意(MoU)を締結した 19。この合意は、技術交流、研究開発、持続可能性ロードマップの推進、政策提言、食料安全保障措置、市場情報の共有など、多岐にわたる協力分野を網羅している。両国は、透明性が高く、消費者と生産者の双方に利益をもたらす、将来を見据えたパーム油サプライチェーンの構築を目指すことで一致した 19。

【背景・要因・進展状況】

この協定の背景には、二つの大きな潮流がある。一つは、世界最大のパーム油生産国であるインドネシアが、森林破壊との関連で国際社会から厳しい監視の目にさらされていることである。インドネシア政府は、国内で違法なパーム油農園の取り締まりを強化しており 20、持続可能な生産体制への移行を国内外に示す必要に迫られていた。もう一つは、世界最大のパーム油輸入国であるインドが、国内の食用油需要を満たすための安定的かつ信頼できる供給源を確保する必要があることだ。この協定は、インドネシアにとっては自国の持続可能性への取り組み(ISPO認証など)を主要な消費国にアピールし、市場アクセスを確保する機会となり、インドにとっては重要な食料供給網を確保しつつ、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する国際的な圧力に対応する手段となる。

【分析的考察】

このMoUは、単なる二国間の貿易協定以上の意味を持つ。「持続可能性外交」とでも言うべき新たなトレンドの現れである。第一次の影響は、両国間のパーム油貿易の安定化である。しかし、第二次、第三次の影響はより構造的だ。この協定は、今後の国際的な一次産品取引において、持続可能性の基準やトレーサビリティが、単なる付加価値ではなく、取引の必須条件となる未来を予示している。インドネシアは、この協定をモデルケースとして、他の輸入国(特に欧米)からの環境規制や輸入制限の動きを先取りし、自国産業の正当性を主張するだろう。インドにとっては、食料安全保障を確保しつつ、サプライチェーンにおけるESGリスクを生産国側に管理させるという、巧みな戦略と言える。これにより、持続可能性を認証する機関や、トレーサビリティを確保する技術(ブロックチェーンなど)の重要性が一層高まる。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】

ポジティブ影響:

  • インドネシアのパーム油生産者: 特にISPO認証など持続可能性基準を満たす大手企業。インドという巨大市場への安定的なアクセスが確保される。
  • インドの食品加工業者: 安定した価格と供給量での原料調達が可能になる。
  • 認証・監査機関: 持続可能性認証(RSPO, ISPO)やサプライチェーン監査を行う企業。需要が増加する。
  • トレーサビリティ技術企業: ブロックチェーンなどを活用し、サプライチェーンの透明性を確保する技術を提供する企業。
    ネガティブ影響:
  • 持続可能性基準を満たせない小規模農家: インドネシア国内の取り締まり強化 20 と合わせ、市場から排除されるリスクが高まる。
  • 競合する植物油生産国: マレーシアなど他のパーム油生産国や、大豆油・菜種油などの生産国は、インド市場での競争が激化する可能性がある。

【引用・参照情報源】

URL:https://ukragroconsult.com/en/news/india-indonesia-sign-strategic-agreement-on-palm-oil-for-growth-and-sustainable-development/

【3】バングラデシュとマレーシア、気候耐性および雑草対策用の新品種稲を導入

【発生日時】

2025年7月下旬
【詳細内容】

バングラデシュ政府は、農業生産性の向上と食料安全保障の強化を目指し、新たに18品種の改良稲の栽培を承認した。これらの80%は、主要な作付け期であるボロ期とアマン期に適した品種である 10。一方、マレーシア農業・食料安全保障省は、マレーシア農業研究開発研究所(MARDI)を通じて、国内で深刻な問題となっている雑草イネ(weedy rice)に対処するため、2つの新品種「MR CL3」と「MR CL4」を発表した 10。

【背景・要因・進展状況】

両国の動きは、それぞれが直面する喫緊の農業課題への対応である。バングラデシュは、気候変動による洪水や干ばつの頻発、人口増加に伴う食料需要の増大という二重の圧力にさらされている。気候変動に強く、収量性の高い品種の導入は、国家の食料自給率を維持するための死活問題である。この取り組みは、国連食糧農業機関(FAO)やゲイツ財団の支援も受けており、国際的な協力の下で進められている 10。一方、マレーシアでは、雑草イネが通常のイネと競合し、収量を大幅に低下させる長年の問題であった。除草剤への耐性を持つ雑草も増えており、遺伝子レベルでこの問題に対処できる新品種の開発が待たれていた。

【分析的考察】

これらの新品種導入は、アジア農業が直面する課題に対する二つの異なるアプローチを示している。バングラデシュの動きは、気候変動という「外的脅威」に対する防御的な適応策である。インドネシアのBRIN(国家研究革新庁)も同様に、ストレスの多い気候条件下で生育可能なイネ品種の研究を進めており 10、地域全体で気候レジリエンスが最優先課題となっていることを示唆する。一方、マレーシアの取り組みは、生産現場における「内的課題」の解決を目指すものである。これらの動きは、バイオテクノロジーや品種改良技術が、アジアの食料安全保障を支える上で不可欠なツールとなっていることを明確に示している。将来的には、気候耐性と病害虫・雑草耐性の両方を兼ね備えた「スーパー品種」の開発競争が激化し、この分野での技術的優位性が国家の農業競争力を左右する重要な要素となるだろう。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】

ポジティブ影響:

  • バングラデシュ・マレーシアの農家: 収量の安定・向上による収入増が期待される。
  • 種子開発企業・研究機関: (例:MARDI, BRIN)。新品種開発の成功により、評価と資金が高まる。
  • 各国の消費者: 食料の安定供給と価格の安定に繋がる。
  • 中立/監視要:
  • 農業資材企業: 新品種が特定の肥料や農薬を必要とする場合、新たな需要が生まれる可能性がある。
  • 政府の農業政策担当者: 新品種の普及と、それに伴う栽培マニュアルの指導、モニタリングが重要となる。
  • 遺伝子組み換え(GM)技術: これらの品種がGM技術に依存している場合、消費者や環境団体の反応を注視する必要がある。

【引用・参照情報源】

【4】ベトナムのメコンデルタ、記録的な早期の塩害に見舞われる

【発生日時】
2025年7月下旬(2024-2025乾季の動向として報道)

【詳細内容】

ベトナム南部の穀倉地帯であるメコンデルタにおいて、2024-2025年の乾季における塩水侵入が、例年の平均より約1.5ヶ月も早く始まったと報告されている 13。2024年12月下旬にはすでに高い塩分濃度が観測され、複数の河口で深刻な状況となっている。専門機関は、2025年2月下旬から3月上旬にかけて塩害がピークに達し、河口から内陸65~70kmまで塩水が侵入すると予測している 12。この異常事態は、地域の農業生産、特にコメ作や果樹園、そして住民の生活用水に深刻な脅威をもたらしている。

【背景・要因・進展状況】

この現象の直接的な原因は、気候変動による海面上昇と、メコン川上流でのダム建設などによる流量減少が複合的に作用した結果である。ベトナム政府と地方自治体は、この問題に長年取り組んできており、対応は構造的対策と非構造的対策の両面から進められている。非構造的対策としては、塩害予測に基づいた作付け時期の調整や、コメ一辺倒からエビとコメの輪作などへの生産モデル転換が進められている 12。構造的対策としては、河口部での大規模な水門建設(例:ラックモップ水門、2025年4月稼働予定)や、地域レベルでの分散型貯水施設の整備が進行中である 12。また、日本(福岡県とカントー市)との協力による排水インフラ整備など、国際協力も活用されている 21。

【分析的考察】

メコンデルタの塩害は、気候変動がもたらす「静かなる危機」の典型例である。これは単発の自然災害ではなく、地域の生態系と経済構造を恒久的に変容させるプロセスである。第一次の影響は農業生産の直接的な被害だが、第二次には、生産モデルの転換(例:淡水農業から汽水・塩水利用型農業へ)が加速し、それに伴う新たな技術やインフラへの投資が必要となる。第三次には、土地利用のあり方そのものが根本から見直され、一部の農地が放棄されたり、他の用途(例:マングローブ再生、再生可能エネルギー施設)に転換されたりする可能性がある。このプロセスは、気候変動への「適応」ビジネスの巨大な市場を生み出す。水管理技術、塩害に強い品種、代替生計手段を提供するサービスなどが、この地域で急速に成長する分野となるだろう。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】

ネガティブ影響:

  • メコンデルタの農家: 特にコメや淡水果樹を栽培する農家。生産性の低下と収入減。
  • 食品加工業: 伝統的な農産物の供給が不安定になる。
  • ベトナム政府: 対策インフラへの巨額の財政支出が必要となる。
    ポジティブ影響:
  • 建設・エンジニアリング企業: 水門、堤防、貯水施設などの建設需要。
  • アグリテック企業: 耐塩性品種、養殖技術、スマート水管理システムを提供する企業。
  • 国際開発機関・コンサルタント: (例:UNDP、日本のJICAなど)。技術協力や資金援助の機会が増加 22。
  • 再生可能エネルギー企業: 土地利用転換に伴い、沿岸部での風力・太陽光発電の機会が生まれる可能性。

【引用・参照情報源】

【5】インドとパキスタンで偽造種子・農薬が横行、当局が取り締まりを強化

【発生日時】
2025年7月下旬

【詳細内容】

インドとパキスタンの農業分野で、偽造された種子や農薬の流通が深刻な問題となっている。インドでは、ニルマル地区の行政官が偽造種子の販売店に対する継続的な検査と厳格な措置を指示したほか、議会委員会が偽造農薬を抑制するための罰則強化を政府に要請した 10。パキスタンでは、パンジャブ州農業局がムルターンで違法な農薬製造施設を摘発し、7人を逮捕、310万ルピー相当の偽造品を押収した 10。これらの偽造品は、農家の収穫量を著しく損ない、土壌汚染を引き起こすなど、農業経済と環境に深刻なダメージを与えている。

【背景・要因・進展状況】

偽造品が蔓延する背景には、貧困、正規の高品質な農業資材へのアクセスの欠如、そして規制・監視体制の脆弱さがある。特に小規模農家は、コストを抑えるために安価な非正規製品に手を出しやすい。さらに、インドのモンスーン遅延 11 のような気候ストレスは、農家の経済的困窮を深め、偽造品市場をさらに拡大させる悪循環を生む可能性がある。インドネシアでも米の偽装事件が発生しており、大統領が断固たる措置を求めていることから 10、この問題がアジアの農業生産における共通の課題であることがうかがえる。中国でも、環境に配慮した製品へのシフトが進む中で、農薬管理の強化が図られている 10。

【分析的考察】

偽造農業資材の問題は、単なる犯罪行為ではなく、アジア農業のサプライチェーンにおける「信頼性の危機」を象徴している。第一次の影響は、偽造品を使用した農家の直接的な経済的損失である。第二次には、国の食料生産量全体に影響を及ぼし、食料安全保障を脅かす。第三次には、農業セクター全体の近代化を阻害する。農家が新しい技術や高価な資材(例えば、気候耐性品種の種子など)を導入しようとしても、市場に偽造品が溢れていては、投資を躊躇せざるを得ない。この問題は、トレーサビリティ技術(QRコード、ブロックチェーンなどによる真贋判定システム)や、農家への直接的な情報提供プラットフォーム、そして信頼できる農業資材のマイクロファイナンスといった、新たなビジネス機会を生み出す。根本的な解決には、単なる取り締まり強化だけでなく、サプライチェーン全体の透明性向上と、農家が正規の製品にアクセスしやすくなるような仕組み作りが不可欠である。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】

ネガティブ影響:

  • インド・パキスタンの小規模農家: 収穫減による経済的損失と、偽造品購入による債務。
  • 正規の農業資材メーカー: ブランド価値の毀損と売上機会の損失。
  • 食品の安全性: 基準を満たさない農薬の使用による残留農薬問題。
    ポジティブ影響:
  • トレーサビリティ技術企業: 製品の真贋判定ソリューションを提供する企業。
  • アグリテック・プラットフォーム: 農家に信頼できる情報や製品へのアクセスを提供する企業。
  • マイクロファイナンス機関: 農家が正規の資材を購入するための融資を提供する機関。
  • 法執行機関・規制当局: 監視体制の強化と、それに伴う技術導入(分析機器など)の需要。

【引用・参照情報源】

URL:https://www.farmers-and-innovations.org/agriculture-news-updates-in-asia-july-2025/

【鉱物資源・地政学領域の動向】

この領域は、大国間競争の新たな主戦場と化した。今週の出来事は、各国が鉱物資源を単なる貿易商品ではなく、地政学的な優位性を確保するための戦略的資産と見なしていることを明確に示している。中国によるレアアースの輸出管理強化、カザフスタンの非鉄金属輸出禁止は、資源の「武器化」が現実のものとなったことを意味する。この動きは、EVから最新兵器に至るまで、あらゆる製品のグローバルサプライチェーンの再構築を強制しており、地政学的に安定した供給源を持つオーストラリアのような国々に追い風となっている。

【6】中国によるレアアース輸出規制の強化が西側諸国の防衛サプライチェーンに混乱を引き起こす

【発生日時】
2025年7月下旬~8月上旬

【詳細内容】

中国政府は、レアアース(REE)、ゲルマニウム、ガリウム、アンチモンといった重要鉱物の輸出規制を強化しており、特に軍事用途での使用を厳しく制限している 6。輸入企業に対しては、製品の画像や生産ラインの写真を含む詳細な書類提出を義務付け、民生用途は承認される一方、防衛・航空宇宙関連の申請は拒否または遅延させられている 6。この措置により、米国の防衛関連企業の生産に最大2ヶ月の遅延が生じ、サマリウムのような特定の鉱物の価格は標準の60倍にまで高騰するなど、西側諸国のサプライチェーンに深刻な影響が出ている 6。

【背景・要因・進展状況】

この動きは、米中間の貿易・技術摩擦が激化する中で、中国が自国の世界的な資源支配力を地政学的な武器として利用する戦略の一環である。中国は、これらの規制を「軍事転用を防ぐための規制措置」と位置づけることで、あからさまな敵対行為ではなく、官僚的な手続きの問題として見せかけ、直接的な報復を避けようとしている 6。米国防総省の兵器システムには、中国の輸出規制対象となる重要鉱物に依存する部品が8万点以上も使われており、その影響は甚大である 6。この状況を受け、米国とその同盟国(G7、韓国、オーストラリアなど)は、代替供給源の確保と国内生産能力の向上を急いでいる 23。

【分析的考察】

中国の戦略は、「サプライチェーン戦争」を、明白な攻撃を伴わない「グレーゾーン」で遂行する能力を示している。これは、第一次の影響として西側防衛産業に直接的なコスト増と生産遅延をもたらす。第二次には、代替供給源を求める世界的な競争を引き起こし、オーストラリアのPLS社のような非中国系の資源企業に巨大なビジネスチャンスをもたらす 7。第三次の影響として、これは世界の鉱物市場のルールそのものを変える。米国主導で進められている「標準ベースの市場」創設の動き 23 は、環境・社会・ガバナンス(ESG)基準やトレーサビリティを市場アクセスの条件とすることで、中国の影響力を削ぎ、同盟国中心の新たな鉱物サプライチェーンを構築しようとする試みである。この結果、鉱物資源の価格は、純粋な需給だけでなく、地政学的リスクとESGプレミアムが上乗せされた、より複雑なものへと変質していくだろう。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】

ネガティブ影響:

  • 西側諸国の防衛・航空宇宙企業: 生産遅延、コストの急騰、サプライチェーンの寸断。
  • 半導体・電子部品メーカー: ガリウム、ゲルマニウムの供給不足による影響。
  • 中国に依存する製造業全般: 規制対象が他の鉱物や製品に拡大するリスク。
    ポジティブ影響:
  • 非中国系の鉱物資源企業: (例:オーストラリア、カナダ、米国の企業)。代替供給源としての需要増加と価格上昇の恩恵。
  • リサイクル技術企業: 都市鉱山からの重要鉱物回収技術の重要性が高まる。
  • 地政学リスクコンサルタント: サプライチェーンの再構築に関するコンサルティング需要が増加。
  • G7および同盟国の政府: 国内の鉱業・精錬プロジェクトへの投資と支援を正当化する強力な理由となる。

【引用・参照情報源】

URL: https://www.indrastra.com/2025/08/chinas-restrictions-on-rare-earth.html, https://www.pillsburylaw.com/en/news-and-insights/g7-critical-minerals-iea.html

【7】カザフスタンが非鉄金属の輸出を禁止、国内の付加価値向上へ舵を切る

【発生日時】
2025年7月31日(報道日)

【詳細内容】

カザフスタン政府は、未加工の銅、アルミニウム(スラブ・ビレット)、鉛(インゴット)の輸出を、2025年12月31日まで全ての輸送手段で一時的に禁止することを決定した 8。この措置の目的は、国内市場への戦略的原材料の供給確保、低付加価値製品の輸出削減、そして国内での非鉄金属加工産業の振興であると説明されている 8。注目すべきは、この禁止措置と同時に、ハイテク分野で重要なガリウムの輸出関税(従来10%)を撤廃したことである。これは、ガリウム生産を刺激し、輸出ポテンシャルを高める狙いがある 25。

【背景・要因・進展状況】

この決定は、地政学的な好機を捉えた戦略的な動きと解釈できる。西側諸国が中国への依存を減らすために必死で代替供給源を探し、ロシアが他の問題で手一杯な中、カザフスタンは自国の資源を最大限に活用してバリューチェーンを駆け上がろうとしている。これまで安価な原材料の輸出国であった立場から、付加価値の高い加工品の生産国へと転換を図る強い意志を示している。鉄鋼製品に関しても同様の輸出禁止措置が取られており 27、国策として国内産業の高度化を目指していることがわかる。この動きは、外国からの直接投資を国内の加工施設に誘導する強力なインセンティブとなる。

【分析的考察】

カザフスタンの動きは、資源ナショナリズムの新たな形態を示唆しており、他の中央アジアやアフリカ、南米の資源国にとっての試金石となる可能性がある。第一次の影響は、カザフスタンから原材料を調達していた国際的な精錬・加工企業が、供給停止に直面することである。第二次には、これらの企業は、カザフスタン国内に加工施設を建設するか、他の供給源を探すかの選択を迫られる。第三次には、もしカザフスタンのこの「賭け」が成功すれば、他の資源国も追随し、「バリューチェーン・ナショナリズム」の波が広がる可能性がある。これは、世界の金属産業のコスト構造と地理的配置を根本的に変える力を持つ。原材料価格は安く抑えられ、加工マージンは生産国が享受するという、新たな国際分業体制への移行を促すかもしれない。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】

ネガティブ影響:

  • カザフスタンから非鉄金属原料を輸入していた企業: (特に中国、ロシア、欧州の企業)。代替供給源の確保または現地投資が必要となる。
  • 国際的な金属トレーダー: 従来の取引モデルが機能しなくなる。
    ポジティブ影響:
  • カザフスタン国内の加工・精錬企業: 国内での原料調達が容易になり、政府からの支援も期待できる。
  • カザフスタンに投資する外国企業: 現地での加工事業に参入する企業。
  • ガリウム関連企業: (例:Eurasian Resources Group)。輸出関税撤廃により、国際市場での競争力が高まる 25。
  • 他の非鉄金属生産国: カザフスタンの供給減により、市場価格が上昇する可能性がある。

【引用・参照情報源】

URL:https://english.news.cn/asiapacific/20250712/0735f538308340e89948cf91f6dd05a9/c.html,https://minexforum.com/2025/07/14/kazakhstan-lifts-export-duty-on-gallium-to-boost-strategic-metal-production/,https://www.steelradar.com/en/haber/kazakhstan-has-imposed-a-six-month-ban-on-semi-finished-exports/

【8】オーストラリアのPLS社、世界的な供給逼迫を追い風にリチウム生産を拡大

【発生日時】
2025年8月3日

【詳細内容】

オーストラリアの大手リチウム生産者であるPLS社(Pilbara Minerals)は、世界的なリチウム市場の回復に備え、成長態勢を整えている。同社の主力である西オーストラリア州のピルガンゴーラ鉱山は、資源量の更新により世界最大のハードロックリチウム資源となり、生産能力を年間100万トンに増強するP1000プロジェクトを完了した 7。最近のスポジュメン精鉱価格は、中国でのリチウム鉱山に対する規制強化などを背景に、7月上旬の底値(約600ドル/トン)から800ドル/トン近くまで回復している 7。同社は、旺盛な需要(世界のEV販売は第2四半期に前年同期比27%増)を背景に、価格は今後も上昇すると見ている 7。

【背景・要因・進展状況】

PLS社の好調は、世界的なエネルギー転換と地政学的なサプライチェーン再編という二つのメガトレンドが交差する点で起きている。EVや蓄電システムの需要拡大がリチウムの基礎需要を押し上げる一方、中国による重要鉱物への輸出規制 6 など地政学的リスクの高まりが、非中国系の安定した供給源としてのオーストラリアの価値を飛躍的に高めている。PLS社は、韓国ポスコとの提携による水酸化リチウム施設への参画や、ブラジルのリチウムプロジェクト買収など、下流工程への統合と地理的な多角化も進めており、単なる鉱山会社から総合的なバッテリー材料サプライヤーへと変貌を遂げつつある 7。

【分析的考察】

PLS社の動向は、新たな資源地政学時代における「勝者」の戦略を体現している。第一次の影響は、同社の生産量と収益の増加である。第二次には、同社の成功が、オーストラリアや他の西側諸国におけるリチウム探査・開発へのさらなる投資を呼び込むだろう。第三次には、PLS社のような企業が、西側諸国が主導する「クリーンで安全な」バッテリーサプライチェーンの中核を担うことになる。中国がレアアースで支配的な地位を築いたように、リチウムなどの重要鉱物では、オーストラリアのような国が地政学的な優位性を握る可能性がある。PLS社が進める、より高付加価値なリチウム濃縮製品を生産する実証プラント 7 は、このバリューチェーン支配を確固たるものにするための重要な布石である。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】

ポジティブ影響:

  • PLS社およびその株主: 業績拡大と株価上昇。
  • オーストラリア経済: 輸出増加と雇用創出。
  • 西側諸国のEV・バッテリーメーカー: (例:テスラ、欧州・米国の自動車メーカー)。非中国系の安定したリチウム供給源を確保できる。
  • 鉱山サービス・技術企業: PLS社の事業拡大に伴う需要増。
    ネガティブ影響:
  • 中国のリチウム加工企業: オーストラリアからの原料調達において、価格交渉力が低下する可能性がある。
  • 競合するリチウム生産者: PLS社のような低コスト・大規模生産者との競争が激化する。

【引用・参照情報源】

URL:https://www.mining.com/australias-pls-primed-for-growth-as-lithium-winter-starts-to-thaw/

【9】韓国とG7パートナー、標準ベースの重要鉱物市場創設に向けた計画を加速

【発生日時】
2025年7月下旬

【詳細内容】

国際エネルギー機関(IEA)の「2025年世界重要鉱物見通し」報告書を受け、G7諸国は、韓国、オーストラリア、インドの支持を得て、重要鉱物のサプライチェーン多様化に向けた行動計画を推進している 23。この計画の中核の一つが、「標準ベースの市場(standards-based markets)」の創設である。これは、持続可能性やトレーサビリティに関する特定の基準を満たす鉱業・精錬プロジェクトに対して、市場アクセスで優遇措置を与えるというものだ。G7諸国は、2025年末までに、この市場の基準や最低限の閾値を定めるためのロードマップを作成することで合意している 23。

【背景・要因・進展状況】

この動きの直接的な引き金は、中国によるレアアース輸出規制 6 に象徴される、重要鉱物サプライチェーンの地政学的リスクの急激な高まりである。従来の市場メカニズムだけでは、供給源の極端な集中という脆弱性を是正できないとの認識が広まっている。韓国は、ハイテク製造業とバッテリー産業にとって重要鉱物の安定確保が死活問題であり、このG7主導の枠組みに積極的に参加している。米国との貿易交渉においても、アラスカのガス開発プロジェクトへの参加と引き換えに、農業分野での譲歩を迫られるなど、エネルギーと資源の安全保障が一体となった交渉が行われている 10。

【分析的考察】

「標準ベースの市場」構想は、自由貿易の原則から、価値観を共有する国々による「管理貿易」へと移行する、地政学的な構造変化の核心である。第一次の影響は、ESG基準を満たす鉱山プロジェクトへの投資が有利になることだ。第二次には、これにより、環境・人権基準が低いとされる中国や一部の国の鉱物に対する非関税障壁が事実上構築される。これは、WTOのルールを直接的に破ることなく、中国の影響力を削ぐための巧妙な戦略である。第三次には、これにより世界の鉱物市場が二極化する可能性がある。一方は、G7とパートナー国が主導する、高基準・高コストだが安定した「信頼できる市場」。もう一方は、それ以外の国々による、低基準・低コストだが不安定な市場である。企業は、自社のサプライチェーンをどちらの経済圏に置くか、戦略的な選択を迫られることになる。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】

ポジティブ影響:

  • G7、韓国、オーストラリアなどの鉱業企業: 高いESG基準を満たすことで、プレミアム価格や市場アクセスでの優遇を受けられる。
  • ESG評価機関・コンサルタント: 基準策定や監査に関する需要が増加。
  • ブロックチェーンなどトレーサビリティ技術企業: 鉱物の産地証明や追跡技術の需要が高まる。
    ネガティブ影響:
  • 中国および一部の途上国の鉱業企業: 新たな基準を満たせず、G7市場から締め出されるリスク。
  • 製造業全般: 鉱物調達コストが全体的に上昇する可能性がある。
  • 世界貿易機関(WTO): 国家安全保障や環境を理由とした保護主義的な動きが、自由貿易体制を形骸化させるリスク。

【引用・参照情報源】

URL:https://www.pillsburylaw.com/en/news-and-insights/g7-critical-minerals-iea.html, https://www.farmers-and-innovations.org/agriculture-news-updates-in-asia-july-2025/

【水産・海洋資源管理領域の動向】

この領域では、ガバナンスと持続可能性が中心的なテーマとなった。一方では、違法・無報告・無規制(IUU)漁業による経済的・生態学的損失に対抗するための地域的な協力体制が強化されている。他方では、バングラデシュの事例が示すように、保全目的の漁業管理が、気候変動という予測不能な要因によっていかに複雑化しているかが明らかになった。また、中国の海洋経済の成長は、資源利用と環境保護のバランスという永遠の課題を突きつけている。インドネシアの事例は、環境政策が社会的な公正を欠いた場合に生じる深刻なリスクを警告している。

【10】インドネシア政府による違法パーム油農園の取り締まりが小規模農家に不均衡な影響

【発生日時】
2025年7月30日

【詳細内容】

インドネシア政府は、森林地帯における違法なパーム油農園や鉱業活動に対し、軍を動員した広範な取り締まりを開始した。2025年2月の開始以来、200万ヘクタールの土地が国によって取り戻された 20。しかし、この取り締まりは、大規模な企業を免責する一方で、先住民族コミュニティや小規模農家を不均衡に標的としていると市民社会団体から批判されている。さらに、取り戻された土地の多くが国営プランテーション企業PT Agrinas Palma Nusantaraに引き渡されており、私的な土地独占が国家による独占に置き換わるだけだとの懸念が高まっている 20。

【背景・要因・進展状況】

この取り締まりは、プラボウォ大統領が1月に発令した規制に基づくもので、インドネシアの森林破壊に歯止めをかけるという国際的な公約を果たすための強力な姿勢を示す狙いがある。しかし、その実施方法が問題視されている。規制は、大規模な企業活動と、歴史的に土地の権利を巡る紛争に巻き込まれてきた地域コミュニティの活動を区別していない 20。その結果、テッソ・ニロ国立公園では、何千もの小規模農家世帯が立ち退きを迫られる一方、地元有力者の違法農園は見逃されるといった「二重基準」が指摘されている 20。

【分析的考察】

この事象は、意図は良い環境政策が、いかに意図せざる社会的な悪影響を生むかを示す典型例である。政府のトップダウンで軍事的なアプローチは、企業の犯罪者と、正当な、あるいは歴史的な土地の権利を持つコミュニティを区別するというガバナンスの重要な失敗を露呈している。第一次の影響は、小規模農家や先住民族の生活基盤の喪失である。第二次には、国営企業Agrinasが提供する「利益分配スキーム」(コミュニティが労働コストを負担し、収益の40%を会社が取る)は、土地所有者を事実上の国家の契約農家に変えるものであり、新たな社会的不満の火種となる 20。第三次には、これはインドネシアから調達する全ての企業にとって、深刻なESGリスクを生み出す。特に「S(社会)」の側面が著しく損なわれるため、国際的な不買運動や法的な異議申し立てにつながる可能性がある。これは、インドと結んだパーム油協定 19 のような持続可能性への取り組み全体の信頼性を揺るがしかねない。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】

ネガティブ影響:

  • インドネシアの小規模農家・先住民族コミュニティ: 土地と生活手段の喪失、不公正な契約のリスク。
  • インドネシア産パーム油を調達する国際企業: (例:食品、化粧品メーカー)。サプライチェーンにおける人権・土地問題というESGリスクに直面。
  • インドネシア政府: 国内の社会不安と、国際的な信頼性の低下。
    ポジティブ影響(皮肉な結果として):
  • 国営企業 PT Agrinas Palma Nusantara: 広大な土地を一挙に手に入れ、世界最大級のパーム油企業となる可能性。
  • 人権・環境NGO: 企業のサプライチェーンにおけるデューデリジェンス(適正評価手続き)の重要性を訴える強力な事例となる。

【引用・参照情報源】

【11】バングラデシュ、延長された禁漁期間を終えカプタイ湖での漁を再開、気候変動の影響が露呈

【発生日時】
2025年8月2日

【詳細内容】

バングラデシュ南東部にある国内最大の人工湖、カプタイ湖で、3ヶ月と2日間にわたる禁漁期間が明け、2025年8月2日の深夜から漁が再開された 28。この禁漁措置は、南アジア最大のこの湖で、コイ科の魚類などの自然繁殖を促す目的で5月1日から導入されたものだった。当初7月31日に終了予定だったが、本格的な漁再開への準備不足を理由に、7月28日の会議で2日間延長されることが決定された 28。しかし、再開直後、漁師たちは豪雨による水位の急上昇で多くの大型魚が死んだことや、魚の成長が芳しくないことを報告しており、期待された成果に影を落としている 28。

【背景・要因・進展状況】

カプタイ湖の禁漁は、持続可能な漁業資源管理のための重要な年間行事である。この湖は、約27,000人の漁師の生活を支え、水力発電(230MW)の源でもある重要な経済基盤だ 28。禁漁期間は、魚類が産卵し、稚魚が成長するための時間を与えることで、長期的な漁獲量を維持することを目的としている。しかし、2025年は、禁漁期間中の異常な豪雨という気候変動に起因するとみられる要因が、この管理努力を妨げる結果となった。漁師たちは、あと15日漁獲を待てば、魚の価値が4倍になったかもしれないと不満を漏らしている 28。

【分析的考察】

カプタイ湖の事例は、伝統的な資源管理手法が、気候変動の予測不可能性によっていかに簡単に覆されるかを示している。第一次の影響は、2025年の漁獲量の期待外れと、漁師の収入減である。第二次には、これは漁業管理政策の見直しを迫る。単に期間を定めて禁漁するだけでなく、水位、水温、降雨量といったリアルタイムの環境データをモニタリングし、禁漁期間を柔軟に調整する「動的な管理」が必要になるだろう。第三次には、これは気候変動への適応策としての技術導入の機会を創出する。衛星データやIoTセンサーを活用した湖の環境監視システム、気候予測モデルに基づいた漁業計画策定支援ツールなどが、新たなビジネスとして成立する可能性がある。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】

ネガティブ影響:

  • カプタイ湖の漁師および水産物仲買人: 2025年の漁獲減による収入減。
  • バングラデシュ水産開発公社(BFDC): 漁獲目標の未達と歳入減のリスク。
    ポジティブ影響:
  • 環境モニタリング技術企業: 衛星画像解析、IoTセンサー、データ分析プラットフォームなどを提供する企業。
  • 気候コンサルタント: 気候変動適応策の策定を支援する専門家。
  • 研究機関: 気候変動が淡水生態系に与える影響を研究する機関。

【引用・参照情報源】

【12】インドネシア、フィリピン、太平洋諸国がIUU漁業の取り締まりを強化

【発生日時】
2025年7月下旬

【詳細内容】

アジア太平洋地域で、違法・無報告・無規制(IUU)漁業に対する取り締まりが強化されている。インドネシア海事水産省は、マラッカ海峡で違法操業の疑いがあるマレーシア漁船2隻を拿捕したと発表。2025年1月から5月にかけて、フィリピン、マレーシア、ベトナム、中国船籍の計13隻の外国漁船を拿捕している 29。フィリピンでも、年間240億~378億ペソの損失を生むIUU漁業に対抗するため、漁船監視システム(VMS)の導入義務化など、法律の厳格な施行が求められている 30。また、太平洋島嶼国漁業機関(FFA)加盟12カ国は、共同で「ライ・バラン2025作戦」を実施し、広大な海域で監視活動を行った 31。

【背景・要因・進展状況】

IUU漁業は、地域の海洋生態系を破壊するだけでなく、沿岸コミュニティの食料安全保障と経済的安定を脅かす深刻な問題である。特に東南アジアや太平洋の海域は、豊かな水産資源を狙う違法漁船の活動が活発なことで知られる。各国の取り締まり強化の背景には、衛星監視技術やAIによるデータ分析、無線周波数追跡ツールといった技術の進歩がある 31。これにより、広大な海域での監視能力が向上し、より効果的な摘発が可能になった。また、国境を越えた協力体制(例:FFA、太平洋QUADs)の強化も、この動きを後押ししている。

【分析的考察】

IUU漁業との戦いは、テクノロジーと国際協力が鍵を握る領域である。第一次の影響は、違法漁船の拿捕件数の増加である。第二次には、これによりIUU漁業の操業コストとリスクが高まり、一定の抑止効果が生まれる。第三次には、これは「責任ある水産物」市場の成長を促進する。IUU漁業由来でないことを証明できる、トレーサビリティが確保された水産物の価値が高まるからだ。これにより、衛星監視サービス、AIデータ解析プラットフォーム、漁船監視システム(VMS)のプロバイダー、そしてブロックチェーンを用いた水産物トレーサビリティシステムを提供する企業にとって、大きな市場が生まれる。一方で、取り締まりが厳しくなるほど、違法操業者はより巧妙な手口を使うようになり、技術開発と規制の「いたちごっこ」が続くだろう。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】】

ポジティブ影響:

  • 各国の合法的な漁業者: 資源の回復と公正な競争環境の確保。
  • 監視技術企業: (例:HawkEye 360, Starboard Maritime Intelligence)。衛星監視、AI分析、VMSなどの需要増。
  • 持続可能な水産物を扱う小売・食品企業: 消費者からの信頼獲得とブランド価値向上。
  • 沿岸警備隊・法執行機関: 監視・摘発能力の向上。
    ネガティブ影響:
  • IUU漁業に関わる事業者: 拿捕、罰金、船舶没収のリスク増大。
  • 一部の水産加工業者: 安価な非正規ルートからの原料調達が困難になる。

【引用・参照情報源】

URL:https://maritime-executive.com/article/indonesia-arrests-two-malaysian-vessels-in-crackdown-on-illegal-fishing,https://www.bworldonline.com/agribusiness/2022/02/14/429641/illegal-fishing-crackdown-seen-as-key-to-meeting-output-goals/,https://www.ffa.int/2025/03/operation-rai-balang-2025-ffa-members-hunt-for-illegal-fishing-across-14-million-square-kilometres-of-ocean/

【13】中国の海洋経済が2025年上半期に5.8%成長、海洋エネルギーと水産養殖が牽引

【発生日時】
2025年8月1日

【詳細内容】

中国自然資源省が発表した速報データによると、2025年上半期の中国の海洋総生産(GOP)は5.1兆元(約7080億ドル)に達し、前年同期比で5.8%の成長を遂げた 32。この成長は、複雑な世界経済情勢の中で達成された。特に、海洋再生可能エネルギーと資源開発が成長を牽引した。洋上原油生産は2.3%増、天然ガス生産は16.9%増となり、洋上風力発電の新規グリッド接続容量は199.4%と急増した。また、国内の水産養殖生産も4.8%増加した 33。

【背景・要因・進展状況】

この成長は、中国政府が海洋経済を国家の成長エンジンと位置づけ、戦略的に投資してきた結果である。中国の海洋経済の規模は10兆元を超え、GDPの約7.8%を占めるに至っている 35。政府は「革新主導の成長」「人間と海の調和」「ウィンウィンの協力」などを掲げ、ハイテク化とグリーン化を推進している 35。造船業では世界のリーダー的地位を維持し、海洋観光も8%成長するなど、伝統的な海洋産業も依然として強力である 33。同時に、海洋バイオ医薬品やハイエンドの海洋工学設備といった新興分野も急速に発展している 36。

【分析的考察】

中国の海洋経済の力強い成長は、国家主導の産業政策が巨大な経済圏を創出する力を持つことを示している。第一次の影響は、関連産業(エネルギー、造船、水産)の直接的な成長である。第二次には、これは世界のエネルギー・食料需給に大きな影響を与える。特に、中国の洋上天然ガス生産の急増は、世界のLNG市場の価格形成に影響を及ぼす可能性がある。また、水産養殖の拡大は、世界の水産物貿易の流れを変えるかもしれない。第三次には、これは地政学的な意味合いを持つ。南シナ海などでの海洋権益主張と並行して、経済的な実効支配を強化する動きと見ることができる。中国が海洋資源開発と環境保護のバランスをどのように取っていくか、そしてその技術が「一帯一路」などを通じて他国にどのように展開されていくかは、アジア全体の海洋秩序を左右する重要な変数となる。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】

ポジティブ影響:

  • 中国の国営エネルギー企業: (例:CNOOC)。政府の支援を受け、生産を拡大。
  • 洋上風力発電関連企業: タービンメーカー、設置業者、ケーブルメーカーなど。
  • 水産養殖技術・飼料メーカー: 養殖業の拡大に伴う需要増。
  • 中国の造船会社: 世界市場でのシェアをさらに拡大。
  • 監視要:
  • 世界のエネルギー市場: 中国の国内生産量の変動が、国際価格に影響を与える。
  • 周辺国の漁業: 中国の漁船団の活動拡大や養殖業の発展が、地域の資源競争に影響を及ぼす可能性。
  • 環境NGO: 大規模な海洋開発が環境に与える影響を監視。

【引用・参照情報源】

URL:https://news.cgtn.com/news/2025-08-01/China-s-marine-economy-grows-5-8-in-first-half-of-2025-1Fu7aL9qUSI/p.html,https://www.bna.bh/en/Chinasmarineeconomygrows5.8inH12025.aspx?cms=q8FmFJgiscL2fwIzON1%2BDkq5ZlUX%2FFR0ULCIQz9b5aY%3D,https://www.chinadaily.com.cn/a/202508/01/WS688cb8f7a310c0209d01a9e7.html


【アグリテック・サステナビリティ領域の動向】

この領域は、食料安全保障と気候変動という二重の圧力によって駆動されるイノベーションの活発化が特徴である。日本における国家主導のトップダウン型技術開発と、アジア太平洋地域全体で勃興しつつあるベンチャーキャピタル主導のボトムアップ型イノベーションエコシステムが対照的な動きとして見られた。これらの動きは、農業が直面する課題解決のために、ロボティクス、AI、バイオテクノロジー、そして新たなビジネスモデルがいかに重要になっているかを示している。基礎科学の分野でも、将来の産業構造を変える可能性を秘めたブレークスルーが報告された。

【14】日本の「スマート農業」構想がクボタとヤンマーの最新技術で大きく前進

【発生日時】
2025年7月31日

【詳細内容】

日本の「スマート農業(Sumato Aguri)」が、自動化とAI活用の新たな段階に入っている。農林水産省(MAFF)の強力な後押しを受け、農業機械大手のクボタとヤンマーが、大阪万博2025で最新のイノベーションを披露した 16。クボタは、AIを搭載し「熟練農家のように考える」ことができる運搬ロボット「Type S」や、耕うんから収穫までをこなす完全自律型プラットフォームロボット「Type V」を発表した 16。ヤンマーは、AIとIoTを活用した営農支援プラットフォーム「SmartAssist」や、営農と太陽光発電を両立させる「アグリボルタイクス」を推進しており、2030年度までに1,000ヘクタールへの拡大を目指している 16。

【背景・要因・進展状況】

この技術開発の背景にあるのは、日本の農業が直面する深刻な労働力不足と高齢化、そして食料安全保障の強化という国家的な課題である 16。MAFFは、2025年までに2万台以上のAI搭載農業ロボットを全国の農地に導入する目標を掲げ 15、これらの技術開発を戦略的に支援している。北海道大学とNTTによる、1,200km離れた場所からロボットトラクターを遠隔操作する実証実験や、培養細胞から食料を生産するスタートアップの登場など、産官学が一体となって「Society 5.0」戦略の一環として農業のデジタルトランスフォーメーションを推進している 16。

【分析的考察】

日本のスマート農業への取り組みは、農業技術をエネルギーや防衛と同等の「国家重要インフラ」として扱う、戦略的な国家プロジェクトである。第一次の影響は、国内農業の生産性向上と省力化である。第二次には、これは日本国内に、高度なロボティクスやAI、センサー技術が結集する、保護された巨大なテストベッド市場を創出する。第三次には、この動きは将来の国際競争における日本の優位性を確立する可能性がある。日本の農地(小区画、中山間地など)や作物(米、高価値園芸作物)という特殊な環境に合わせて開発された「ガラパゴス」技術は、すぐには輸出できないかもしれない。しかし、欧米の先進国もいずれ同様の労働力不足問題に直面するため、日本で実績を積んだ高精度・小規模自動化技術は、将来的に高い国際競争力を持つことになるだろう。これは、次世代の農業機械市場における日本のゲームチェンジャーとなり得る。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】

ポジティブ影響:

  • 日本の農業機械メーカー: (例:クボタ、ヤンマー)。政府の支援を受け、技術開発と国内市場でのシェアを拡大。
  • AI・ロボティクス・センサー関連企業: 農業分野への技術応用の機会が拡大。
  • 日本の大規模農家・農業法人: 生産性の向上と人件費の削減。
  • 大学・研究機関: 産学連携による研究開発が加速。
  • 監視要:
  • 中小規模の農家: 高価なスマート農機の導入コストが障壁となる可能性。リースやシェアリングなどのビジネスモデルが重要になる。
  • 国際的な農業機械メーカー: 日本市場への参入障壁が高まる一方、日本の技術動向を注視する必要がある。

【引用・参照情報源】

URL:https://www.manilatimes.net/2025/07/31/business/agribusiness/ai-robotics-lead-japans-food-security-effort/2159013,https://farmonaut.com/asia/japan-smart-agriculture-robotics-7-ai-innovations-2025

【15】アジア太平洋地域初のアグリテック・クライムアクセラレーターが始動、新たなイノベーションエコシステムの台頭を示す

【発生日時】
2025年7月15日

【詳細内容】

シンガポールを拠点とするAgritech ClimAcceleratorが、アジア太平洋地域(APAC)で初となるプログラムの参加スタートアップ9社を発表した 37。このプログラムは、ベンチャーキャピタルのBetter Earth Venturesと、欧州を代表する気候イノベーション機関であるClimate KICが共同で運営する 39。選ばれた9社は、オーストラリア、シンガポール、タイなど6カ国からなり、持続可能な素材、デジタル農業、循環型経済モデル、強靭なサプライチェーン、炭素関連イノベーションなど、気候変動に対応するアグリテック分野のブレークスルーを目指している 37。

【背景・要因・進展状況】

このアクセラレーターの立ち上げは、APAC地域における気候変動対策と食料安全保障という喫緊の課題に対応する必要性から生まれた。APACは世界の人口の60%以上を占め、気候変動に対して最も脆弱な農業地域を多く抱えている 40。しかし、この地域の気候テック・アグリテック分野のスタートアップは、欧米に比べて資金調達の機会が限られていた 41。このプログラムは、欧州の先進的な気候イノベーションの枠組みと資金(Climate KICは過去に6,000社以上のスタートアップを支援)を、APACの起業家精神と地域のニーズに結びつけることを目的としている 37。

【分析的考察】

このアクセラレーターの始動は、単なるスタートアップ支援プログラム以上の意味を持つ。これは、気候変動対策アグリテックのイノベーションにおける重心が、アジアへとシフトしつつあることを示す象徴的な出来事である。第一次の影響は、選ばれた9社の成長加速である。第二次には、これは欧州の資本や知見と、アジアの起業家や市場を結びつける「橋渡し」の役割を果たす。これにより、欧米の技術を無理やりアジアに適用するのではなく、小規模農家が多い、熱帯・亜熱帯気候であるといった、アジア特有の課題に対応した「ローカル・フォー・ローカル」なソリューション開発が加速する。第三次には、これはインドやベトナムが直面しているような気候変動の物理的な脅威 11 に対する、「ソフトウェア」としての解決策を提供する、投資可能な企業のパイプラインを創出する。これは、アジアの農業が直面する巨大な課題を、グローバルなイノベーションエコシステムで解決しようとする新たな動きの始まりである。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】

ポジティブ影響:

  • APACのアグリテック・気候テックスタートアップ: (例:Living Roots, N\&E Innovations)。資金調達、メンターシップ、市場アクセスの機会を得る。
  • ベンチャーキャピタル・インパクト投資家: 有望な投資先の発掘が容易になる。
  • アジアの農業従事者: 地域の実情に合った新しい技術やサービスの恩恵を受ける可能性。
  • 大手農業・食品企業: オープンイノベーションのパートナーとなる有望なスタートアップと連携しやすくなる。
  • 監視要:
  • 各国の規制当局: 新しい技術(例:生物肥料、遺伝子編集)に対する規制の整備が追いつくか。

【引用・参照情報源】

URL:https://agreads.com/2025/07/15/better-earth-ventures-announces-9-standout-companies-for-the-inaugural-agritech-climaccelerator-singapore-programme/,https://e27.co/agritech-climaccelerator-unveils-9-startups-selected-for-inaugural-programme-20250714/, https://ripo.kmutt.ac.th/2025/05/14886/

【16】科学者が室温で分解可能な画期的なバイオプラスチックを発表

【発生日時】
2025年8月3日

【詳細内容】

米国のワシントン大学セントルイス校の科学者たちが、室温で分解可能でありながら、従来の石油由来プラスチックの性能を上回る新しいバイオプラスチックを開発したと発表した 42。この技術は、世界的に深刻化するプラスチック汚染問題に対する画期的な解決策となる可能性を秘めている。

【背景・要因・進展状況】

プラスチック汚染、特にマイクロプラスチックによる環境・健康への影響は、世界的な重要課題となっている。これまでのバイオプラスチックの多くは、分解に特定の温度や湿度などの条件が必要であったり、性能が石油由来プラスチックに劣ったりする課題があった。この新しいバイオプラスチックは、これらの課題を克服する可能性を示唆しており、持続可能な材料への転換を加速させるものとして期待されている。この研究は、アジア太平洋地域でも高まるサステナビリティへの関心 44 と軌を一つにするものである。

【分析的考察】

  • この基礎科学におけるブレークスルーは、一次産業に広範な影響を与える長期的なポテンシャルを持つ。第一次の影響は、プラスチック代替材料の研究開発がさらに活発化することである。第二次には、もしこの技術が商業化されれば、農業用資材(マルチフィルム、育苗ポットなど)、漁業用具(漁網、ブイなど)、食品包装材といった、一次産業で大量に使用され、環境中に流出しやすいプラスチック製品の置き換えが進む。第三次には、これは「循環型経済」を根本から変える可能性がある。分解が容易なため、リサイクルの概念が変わり、製品のライフサイクル全体を通じた環境負荷が劇的に低減されるかもしれない。これは、農業や漁業を持続可能な産業へと転換させる上で、ゲームチェンジャーとなり得る技術である。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】

ポジティブ影響:

  • 農業・漁業分野: 環境負荷の低い資材を利用できるようになり、持続可能性を向上させられる。
  • 食品・飲料業界: サステナブルな包装材への転換が可能になる。
  • 化学・素材メーカー: 新たな事業領域として、この技術のライセンス生産や改良に乗り出す可能性がある。
  • 環境: プラスチックごみ問題の解決に大きく貢献する。
    ネガティブ影響:
  • 従来の石油化学メーカー: 石油由来プラスチックの需要が減少し、事業構造の転換を迫られる。

【引用・参照情報源】

URL: https://www.sciencedaily.com/news/earth_climate/environmental_science/, https://www.sciencedaily.com/news/earth_climate/sustainability/

【17】アジア太平洋地域の気候テックスタートアップ向けに新たなアクセラレーターが発足

【発生日時】
2025年7月28日

【詳細内容】

アジア太平洋地域(APAC)の気候テックスタートアップが直面する資金調達のギャップを埋めることを目的とした、新しいアクセラレータープログラム「ClimAccelerator APAC」が発表された 41。このプログラムは、地域の気候変動関連のイノベーションを促進することを目指している。

【背景・要因・進展状況】

APAC地域は気候変動の影響を最も受けやすい地域の一つであり、革新的な解決策が急務とされている。しかし、この地域の気候テック分野のスタートアップは、欧米に比べて資金調達や事業拡大の支援が不足しているという課題があった。この新しいアクセラレーターは、こうした状況を打開し、有望なスタートアップに資金、メンターシップ、ネットワークを提供することで、地域全体の気候変動への対応能力を高めることを目的としている。これは、前述のAgritech ClimAccelerator 37 と同様の、地域特化型イノベーション支援の潮流の一環である。

【分析的考察】

このアクセラレーターの設立は、APACにおける気候テック市場の成熟度が高まっていることを示している。第一次の影響は、参加スタートアップの成長支援である。第二次には、これは地域の投資家や大企業が気候テック分野に関心を持ち、投資を増やすきっかけとなる。第三次には、これはAPAC地域内に、気候変動という共通の課題に取り組むための、国境を越えたイノベーション・エコシステムを構築することに繋がる。インドのモンスーン問題 11 やベトナムの塩害 12 のような、一次産業が直面する具体的な課題に対して、このアクセラレーターから生まれたスタートアップが解決策を提供するという、好循環が生まれることが期待される。これは、地域の課題を地域の技術で解決するという、自律的な成長モデルへの移行を象徴している。

【影響が想定される具体的な地域・分野・企業・技術・人物】

ポジティブ影響:

  • APACの気候テックスタートアップ: 資金調達と事業成長の機会が増える。
  • ベンチャーキャピタル、インパクト投資家: 投資対象となる質の高いスタートアップが増加する。
  • 一次産業を含む各産業: 気候変動への適応・緩和に役立つ新しい技術やサービスを利用できるようになる。
  • 大学・研究機関: 研究成果を事業化する機会が増える。
  • 監視要:
  • プログラムの成果: 実際にどれだけのスタートアップがスケールアップし、社会的なインパクトを生み出せるかが問われる。

【引用・参照情報源】

URL: https://www.agtechnavigator.com/

総合分析

収集したニュース全体を分析すると、アジアの一次産業は「地政学」と「気候変動」という二つの強力な外部要因によって、構造的な変革期に突入していることが明らかになる。これらの要因は独立して存在するのではなく、相互に作用し、産業横断的な連鎖反応を引き起こしている。

PESTLE分析

  • 政治(Political): 米国の「相互関税」3 や中国・カザフスタンの資源輸出規制 6 は、政治が経済合理性に優先する時代の到来を告げている。国家安全保障を名目とした貿易・資源管理が常態化し、サプライチェーンは地政学的同盟に沿って再編される。インドネシアの違法農園取り締まり 20 も、国内政治と国際公約の狭間での強力な政治的決断である。
  • 経済(Economic): 関税導入は、アジア諸国の輸出競争力に直接影響を与え、インフレ圧力となる 4。気候変動による農業被害 11 は食料価格を高騰させ、農村経済を疲弊させる。一方で、日本のスマート農業 16 やAPACの気候テックアクセラレーター 41 は、新たな巨大経済圏の創出を示唆している。
  • 社会(Social): 日本の労働力不足と高齢化は、スマート農業導入の最大の駆動力である 16。インドでは、モンスーンの遅れが農家の生活を脅かし、社会不安のリスクを高めている 11。インドネシアのパーム油農園問題では、環境政策が先住民族や小規模農家の権利という社会問題と衝突している 20。
  • 技術(Technological): AI、ロボティクス、IoT、バイオテクノロジーが、生産性向上と課題解決の鍵となっている。日本のスマート農業 16、バングラデシュの新品種開発 10、IUU漁業対策における衛星監視技術 31、そして画期的なバイオプラスチックの開発 43 など、技術革新が産業の未来を左右する。
  • 法律(Legal): 各国は偽造農業資材への罰則強化 10 や、IUU漁業対策のための法整備 30 を進めている。G7が主導する「標準ベースの市場」構想 23 は、事実上の新たな国際ルールとなり、企業のコンプライアンスコストを増大させる可能性がある。
  • 環境(Environmental): 気候変動の影響は、インドの干ばつ 11、ベトナムの塩害 12、バングラデシュの異常気象 28 として、もはや疑いのない現実となっている。これに対応するための持続可能性への取り組み(インド・インドネシアのパーム油協定 19、マレーシアのグリーンな未来志向 10)が、企業の競争力を決める重要な要素となっている。

産業横断的トレンドと相互作用の分析

今週の動向は、一次産業内の各分野や他産業が、いかに密接に連関しているかを浮き彫りにした。

  • 鉱業から製造業、そして農業への連鎖: 地政学的緊張(政治)が、レアアースなどの鉱物資源(鉱業)の供給を不安定化させ、価格を高騰させている 6。これは、半導体やロボットといったハイテク部品(製造業)の生産を脅かす。その結果、日本の「スマート農業」戦略(農業)のように、これらのハイテク部品に依存する国家戦略の実現可能性やコストに直接影響が及ぶ。レアアースの不足は、日本の食料安全保障を支えるはずの自律走行トラクターの配備を遅らせる可能性がある。
  • 気候から社会、そして政策への連鎖: 気候変動(環境)が引き起こすモンスーンの不順 11 や塩害 12 は、農家の生活基盤を破壊し、移住リスクを高めるなど、直接的な社会不安(社会)を引き起こす。この社会的圧力が、政府に短期的な救済策と長期的な戦略転換(新品種導入、インフラ投資、食料安全保障のための貿易協定など)を組み合わせた政策(政治・法律)を強いる。インドネシアのパーム油農園の取り締まり 20 のように、この社会的な側面を管理し損なうと、環境政策そのものの正当性が失われかねない。

主要アジア諸国に対する米国の新相互関税の概要(2025年8月発効)

以前に脅かされた/議論された税率発表された税率(2025年8月7日発効)状況と戦略的インプリケーション関連情報源
タイ36%19%交渉により税率は引き下げられたが、依然として大きな影響に直面。外交的な部分的な成功を意味する。1
カンボジア49% (初期), 後に36%19%脅かされていた税率から大幅に引き下げられたが、依然としてリスクに晒されている。特に繊維・アパレル製品への関税が経済に脆弱性をもたらす。1
マレーシア25%19%20%未満という目標を達成。より低い税率を確保できなかった近隣諸国に対して競争上優位に立つ。2
ベトナムN/A (協定報道あり)20%協定を確保したが、一部の近隣諸国よりわずかに高い税率。積極的な交渉姿勢を示すも、関係の複雑さを浮き彫りにした。3
インドネシアN/A (協定報道あり)19%有利な税率の交渉に成功。信頼できる貿易パートナーおよびサプライチェーンの代替地としての地位を強化。3
フィリピンN/A (協定確認済み)N/A (協定確認済み)協定を確保し、高関税を回避。米国との戦略的連携を再確認した。5
中国8月12日に期限切れの休戦関税の一時停止一時的な休戦は、水面下でハイステークスな交渉が続いていることを示す。根本的な対立は未解決のまま。5

重要な兆候と戦略的インプリケーション

機会(Opportunities)

  • 資源の「フレンド・ショアリング」: 中国やカザフスタンによる資源の武器化は、オーストラリア、カナダ、南米の潜在的なプロジェクトなど、政治的に連携した国々の鉱物生産者にとって、プレミアム価格がつく市場を創出している。これらの地域での探査・精錬への投資は大きな機会となる。
  • 気候テック・アグリテックのブーム: 気候変動の物理的影響と食料安全保障への戦略的要請(特に日本)は、水管理、強靭な種子、精密農業、ロボティクス、生物由来資材に関連する技術にとって、巨大で不可避な市場を生み出している。新設されたAPACのアクセラレーター 37 は、このエコシステムへのゲートウェイである。
  • サプライチェーン多様化サービス: 米国の関税が引き起こす混乱は、企業が新たな高関税地域から迅速にサプライチェーンを再構築・移転するのを支援するコンサルタント、物流企業、法務専門家への需要を生み出す。

脅威/リスク(Threats/Risks)

  • システミックなサプライチェーンの不安定性: 新たな常態は地政学的な変動性である。純粋に経済効率性に基づいた長期的で安定したサプライチェーンは過去のものとなった。企業は今後、政治リスクを主要な変数として組み込む必要があり、これはコスト増と在庫バッファーの増加につながる。
  • ESGの「バックラッシュ」: インドネシアで見られるように 20、社会的な影響(ESGの「S」)を考慮せずに実施される環境政策は、企業や政府にとって重大な評判リスクや法的リスクを生み出し、市場アクセス制限につながる可能性がある。
  • 連鎖的なインフレーション: 関税 4、気候変動による不作 11、鉱物不足による投入コストの上昇 6 という複合的な要因は、消費財と工業製品の両方において、持続的なインフレという多面的な脅威を生み出す。

🔚 総括:短期・中期・長期の構造変化の示唆と予兆的シナリオ

今週の出来事は、アジアの一次産業が、地政学と気候変動という不可逆的な力によって再定義されつつあることを示している。これらのトレンドは、短期的な混乱から、中長期的な構造変化へと発展していくことが予測される。

  • 短期(0~1年): オペレーションの混乱期。企業は関税や気候ショックへの対応に追われる。焦点は、危機管理、当面の供給確保、価格ヘッジに置かれる。サプライチェーンの脆弱性が露呈し、短期的なコスト増は避けられない。
  • 中期(1~3年): 戦略的再編期。資本は、鉱物精錬やアグリテック開発のために、「友好国」へと流れ込む。サプライチェーンは積極的に再設計される。日本のスマート農業やカザフスタンの付加価値化戦略といった国家主導の取り組みが、最初の大きな成功(あるいは失敗)事例として現れるだろう。この時期に戦略的な投資と再編を断行できた企業が、次の時代の勝者となる。
  • 長期(3~10年): 経済ブロックの硬直化。重要物資(鉱物、技術、食料)のサプライチェーンは、地政学的なブロック内でほぼ完結するようになる。技術と持続可能性は、国家安全保障の柱として完全に統合される。2035年の一次産業は、自由市場経済よりも、地政学と気候変動の要請によって形作られた、今日とは根本的に異なる姿になっているだろう。

🔍 その他の注目動向(Notable Mentions)

【1】韓国、米国主導の貿易交渉に参加

  • 発生日時: 2025年7月28日頃
  • 概要: 韓国は、米国との貿易交渉において、アラスカのガス開発プロジェクトへの参加と引き換えに農業分野での譲歩を求められるなど、複雑な交渉に直面している。
  • 関連地域・分野: 韓国、米国、農業、エネルギー
  • 情報源: https://www.farmers-and-innovations.org/agriculture-news-updates-in-asia-july-2025/

【2】アジアにおける暗号資産マイニングの新たな勢い

【3】中国、戦略的鉱物の密輸に「ゼロ・トレランス」政策

  • 発生日時: 2025年7月24日
  • 概要: 中国政府は、国家の戦略的資産である重要鉱物の密輸に対して、一切容赦しないという厳しい姿勢を表明した。
  • 関連地域・分野: 中国、鉱業、法執行
  • 情報源: https://www.cgtn.com/sci-tech.html

【4】ASEAN、新たな鉱物協力の枠組みを推進

  • 発生日時: 2025年7月下旬
  • 概要: ASEANは、AMCAP-III計画の下、地域を持続可能な鉱物投資の目的地として推進し、バリューチェーン全体での投資を促進するための協力体制を強化している。
  • 関連地域・分野: ASEAN、鉱業、投資、持続可能性
  • 情報源: https://asean.org/our-communities/economic-community/asean-minerals-cooperation/

【5】アジア太平洋地域で持続可能金融の分類体系(タクソノミー)が収斂

【6】ベンガル湾での漁業禁止措置が終了

【7】インド議会委員会、偽造農薬に対する罰則強化を要請

【8】インド宇宙研究機関(ISRO)とNASAが共同地球観測衛星を打ち上げ

  • 発生日時: 2025年7月31日
  • 概要: インドと米国の宇宙機関が共同開発した地球観測衛星がインドから打ち上げられた。気候変動や農業、災害監視などへの活用が期待される。
  • 関連地域・分野: インド、米国、宇宙技術、気候科学、農業
  • 情報源: https://www.cgtn.com/sci-tech.html

【9】中国、新たな高亜鉛米品種の配布を開始

【10】中国、環境配慮型農薬へのシフトが鮮明に

【11】マレーシアのパーム油在庫、4ヶ月ぶりに減少する見込み

  • 発生日時: 2025年7月上旬(6月のデータとして報道)
  • 概要: 6月のマレーシアのパーム油在庫は、生産量の予想外の減少と堅調な輸出需要により、4ヶ月ぶりに減少に転じる可能性が示された。
  • 関連地域・分野: マレーシア、農業、商品市場
  • 情報源: https://www.admis.com/global-ag-news-for-july-3-2025/

【12】中国、ウクライナ産大麦を大量購入

  • 発生日時: 2025年7月上旬
  • 概要: 中国企業が2025年収穫のウクライナ産大麦を最大70万トン契約したと報じられた。旺盛な需要が価格を押し上げている。
  • 関連地域・分野: 中国、ウクライナ、農業、国際貿易
  • 情報源: https://www.admis.com/global-ag-news-for-july-3-2025/

【13】フィリピン、グリーン移行に必要な重要鉱物の国内加工を奨励

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